映画「地下に潜む怪人(As above so below)」感想と考察

あらすじ
舞台は中東のとある町。若き考古学者スカーレットは亡き父親の知人の助けを借りて、政府に爆破される直前の古代遺跡に忍び込む。そして命からがら古代の碑文を発見。パリに戻った彼女は暗号解読スペシャリストの友人と共に探検隊を編成し、カタコンベの深淵に足を踏み入れる。錬金術師ニコラス・フラメルの墓こそ、賢者の石が眠る場所だと確信したからだ。

みどころ
テーマは“カタコンベ”と“賢者の石”。知的好奇心をくすぐる題材によって、鑑賞後の考察や関連情報の調査が楽しい映画である。考古学の知識を生かして都市伝説の謎を紐解きながら前に進み、デストラップを回避して走り回る様子はまさに現代版“インディ・ジョーンズ”。実際「インディ・ジョーンズ」シリーズにインスパイアされている可能性があり、ジョージを演じた役者ベン・フェルドマンのインタビュー記事にて往年の冒険映画に対するリスペクトが言及されている。

原題「As above so below」は錬金術の基本原理で、日本語に訳すと「上なるものは下のごとく、下なるものは上のごとく」という意味。この文字が記されたのは古代エジプトで発見された伝説の碑文エメラルドタブレットと言われ、ヘルメス主義(古代神秘学)7つの原理のうちの一つとされている。ちなみにヘルメス主義は、日本でも流行った「引き寄せの法則」のベースになっている思想で、占星術、錬金術、神智学、自然哲学など神秘学の総称だ。逆さになったエッフェル塔のビジュアルは上下が逆になった地獄を表現。

正確にいうと本作はファウンドフッテージホラーではない。POVスタイルのアドベンチャーホラー映画だ。「○○年●●月、誰々がどこどこで消息を経った。これは発見された映像の一部始終である。」という定番の文言は入らない。手持ちカメラに加え、頭部にセットされた予備カメラからもカタコンベ散策の様子が記録される。肝心な箇所の全てが画面に映し出されるため、ファウンドフッテージ映画にありがちな、もっと見せろや!というストレスは発生しない。そのかわり情報量がとても多い。しかもカメラがビュンビュン揺れながら展開するため、1回の鑑賞では何が起きたのか理解するのが難しい。一見、意味がなさそうなビックリ演出にも伏線や背景が隠されているので、何度も鑑賞することをお勧めしたい。

ヘルメス主義<Wikipedia>
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%AB%E3%83%A1%E3%82%B9%E4%B8%BB%E7%BE%A9

ニコラス・フラメル<Wikipedia>
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%83%BB%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%A1%E3%83%AB

ベン・フェルドマン(ジョージ役)インタビュー
AS ABOVE SO BELOW IS INSPIRED BY “DAN BROWN AND INDIANA JONES”

As Above So Below is inspired by “Dan Brown and Indiana Jones”

▼ネタバレと考察
本作は探検隊メンバーひとりひとりの過去に関係する亡霊が登場する。ときにその亡霊は人間と区別がつかない。メンバーの共通点は、身近な人を失った過去に対して後悔を抱えていること。またその過去から目を背けていること。カタコンベでは個人のトラウマが具現化して現世に現れ、地獄に引きづりこもうとするのだ。全てのシーンは探検隊の誰かの過去が関係していると思われるが、劇中説明が足りない(分かりづらい)人物も多いため、とても難解である。亡霊は役目を果たす(原因となった人物殺す)とその場から消えるので、それをヒントに推測も兼ねた考察を。

・登場人物について
スカーレット(本作の主人公。考古学者で古代言語のエキスパート)
→錬金術学の権威であった考古学者の父親が精神を病んで自殺。死ぬ直前、父からの電話に出られなかったことを後悔。冒頭、爆破直前の洞窟で首をつった父親が一瞬現れる。その後何度も登場。直接スカーレットを攻撃しないので、娘に対する警告ではないかと思われる。終盤、懺悔により父親の亡霊はすっと消える。

ベンジー(スカーレットを撮影するカメラマン)
→最初の被害者。プロカメラマンと探検の様子を撮影し続けるも無残に殺される。ベンジーに関する情報は少ないため、彼を井戸から落として殺した女は誰なのかを考える必要がある。一瞬だけ写った女の手には赤ちゃんが抱えられているが、この母娘はゼッドの元恋人と思われる。彼のカメラに度々映る謎の美女に関する考察は別項目で。

ジョージ(スカーレットの元恋人で暗号解読のエキスパート)
→事故で弟が溺死し閉所恐怖症に。助けを呼びに行く途中で迷子になったこと悔やんでいる。水面ように透けた岩から弟の亡霊が彼を引き込もうとする。終盤、壁から飛び出した石の亡霊に首を噛まれて致命傷を負う。

パピヨン(カタコンベを遊び場とするグループのリーダー)
→自分が引き起こした自動車事故で後部座席に乗っていた親友を失う。手の火傷跡について尋ねられると嫌な顔をするのはこの事故が理由。観光客向けのカタコンベツアーに現れ「パピヨンに会え」とスカーレットにアドバイスするのはこの友人で、後々パピヨンを燃えた自動車に引きずり込む。見覚えがない落書きに戸惑うシーンでは、嘘をついているのではと同行者に疑われる。おそらくこの落書きは実際にパピヨンが書いたもの(亡霊となった後に書き残すもの)で、ラ・トープと同じように魂が囚われて、永遠に彷徨い続ける未来を暗示しているのではないだろうか。

スージー(パピヨンの友人)
→ラ・トープの親友(元恋人の可能性も)であり、失踪時に一緒にいたと思われる。そのことは直接彼女の口から言及されないが、ラ・トープの第一声が「いちゃダメだ、スージー」であることや、落盤事故の後、ラ・トープに真っ先に話しかけた行動からも、スージーがラ・トープを召喚したのではないかと推測。途中、大怪我を負うものの、賢者の力によって治る(この経験から石に治癒能力があるとスカーレットは勘違いする)。ラ・トープによって殺される。

ゼッド(パピヨンの友人の登山家)
→この手の映画に珍しく最後まで生き残る。とても運がいい人物。終盤、妊娠した彼女を振ったと告白する。その彼女は自殺したと思われる。母娘の亡霊がゼットではなくベンジーを殺した理由は不明。

ラ・トープ(カタコンベの地下通路を知り尽くした行方不明の友人、通称モグラ)
→数ヶ月前に失踪したと思われていたが、突然現れて道案内する。実際はカタコンベに囚われた亡霊と思われる。挙動不審ながらもその生々しい姿にパピヨンは彼の生存を信じる。ラトープはスージーを殺した後に目の前から消え、そのまま映画からも退場する。

謎の美女
→ナイトクラブですれ違った美女は、その後何度も登場しベンジーが撮影するカメラに視線を向ける。しかしベンジーは何の反応も示さないことから、別の人物に関係する亡霊か、もしくは現世と地獄をつなげる水先案内人の可能性が考えられる。現時点で腹落ちできる仮説はなし。最初は自殺したゼッドの元カノと思ったが、ベンジーを突き落とした女と顔が違うような。。。椅子に座る黒頭巾の女性と同一人物かどうかも判別できない。彼女以外にも謎の亡霊は多数登場。

・賢者の石とは?
スカーレットは賢者の石が“石そのもの”ではないと気付く。負傷したゼットを救うために壁画の部屋に戻った彼女は石を元の位置に戻し、「罪なき者、大地の中で秘密の石を見つける」の暗号を正しく解き、発見した鏡で自分の顔を覗き込む。そう、賢者の石とは鏡を通して継承される超自然的な能力(パワー)だったのだ。その力を使ってゼットジョージの致命傷を治癒した後、カタコンベからの脱出に成功する。落盤事故の後、スージーが治癒した理由も石ではなく聖なる場所のおかげと思われる。では最初に取った石は何なのか?亡霊者たちの襲撃のトリガーとなるこの石は、富と名声を狙った愚かな盗掘者に向けてニコラス・フラメルが仕掛んだ罠だったのではないだろうか。

・ニコラス・フラメルは生きていた?
墓室に到着した探検隊は十字軍の衣を着て眠るように横たわる老人の遺体(フラメル?)を見て「なぜ腐っていないの?」と驚く。すぐに隣の部屋に移動してしまうが、実は聖なる力が遺体を腐敗から守っているのではなく、眠っているだけの生きた老人だったのでは?見えない能力が賢者の石であることが劇中判明するので、不老不死の力を得たフラメルは実は600年間ずっと生きていて、錬金術の継承者が現れる日を待っていた可能性は十分考えられる。終盤は「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」からの影響が濃かったので、聖杯を守った十字軍の老騎士にフラメルを重ねると、あながち生存説も嘘ではないような気がする。

・監督は誰?
監督はアメリカ出身のジョン・エリック・ドゥードル。脚本はドリュー・ドゥードル。実の兄弟である彼らはThe Brothers Dowdleというユニット名で数多くの映画を製作。シャマラン製作、エレベーターを舞台にした不条理シチュエーションホラー映画「デビル」や東南アジアで勃発した内戦からの脱出アクション「クーデター(No Escape)」など。いずれの作品も特殊なシチュエーションに置かれた人々の恐怖と心理戦が描かれている。ほとんどの作品が100分以内に収まるコンパクトな仕上がりで、とにかくセンスが良い。スタイリッシュに表示されるタイトルロゴのモーションだけでも何度もリピートしたい。エンドロールのビジュアルカットもとてもクールだ。

邦題:地下に潜む怪人
原題:As above so below(上なるものは下のごとく、下なるものは上のごとく)
ポスター画像:逆さのエッフェル塔で地獄を表現。
構成:POV
テーマ:都市伝説、カタコンベ、錬金術、賢者の石、地獄、古代遺跡
舞台:パリ、中東
カメラの数:複数
手ぶれ度:中
製作年:2014年
監督:ジョン・エリック・ドゥードル
キャスト:パーディタ・ウィークス、ベン・フェルドマン、エドウィン・ホッジ

“映画「地下に潜む怪人(As above so below)」感想と考察” への6件のフィードバック

  1. Netflixで観ました。モヤモヤしてたので考察サイトを見つけて拝見しました。分かりやすくてスッキリしました。色々ホラーは観ましたが、ほんとにありそうと思ってしまう程怖い映画でした。

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    1. トラさん、コメントありがとうございます!初見時のモヤモヤ感わかります!怖すぎて途中からストーリーを追えなくなっていきますよね。

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  2. スカーレットが継承したあと、ゼットの治療をしたと記載されてますが、ジョージの間違えだと思います。
    映像に酔ってしまって繰り返し見る気にならなかったので、考察していただいて助かりました。
    入り口付近で歌っていた集団は関係のない者達なのでしょうか?
    カタコンベあるあるなのかもと思いつつときになります(笑)

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    1. McLovinさん、コメントありがとうございます!書き間違えのご指摘助かりました!修正しました。入り口付近の集団のひとり、こちらを振り返る女性とナイトクラブで目が合う美女は同一人物だと思っています。あの集団は地獄の入り口にやってきた訪問者を歓迎する巫女みたいな存在かもしれないですね。幽霊か実在する人間(カルト宗教の信者)か判断難しいですよね!

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