「アフリクテッド(Afflicted)」感想

▼あらすじ
IT企業を退職したデレクと彼の幼馴染でビデオブロガーのクリフは世界一周旅行を企画する。脳に難病を抱えたデレクは、リスクを抱えながらも自分探しの旅をインターネットで発信することで、人生の意義を見出そうと考えたのだ。夜の街で羽目を外したデレクは体調に異変を感じつつも旅を続ける・・・

▼感想
「アフリクテッド」はミレニアル世代(SNS世代)が作った新しいモキュメンタリー映画だ。
我々鑑賞者は、発見された映像が第三者の手に渡って公開されるという従来の手法ではなく、撮影者(2人の主人公)の友人としてインターネットで鑑賞することになる。デレクとクリスも役名ではなく本名だ。劇中に流れる幼少期の映像も本物。脳の病気を心配する家族も本物。それはまるでYoutuberの投稿動画をリアルタイムで見ている感覚に近い。これまでのPOV作品とは明らかに異なるリアリティーと日本人でも理解できる親近感がある(デレクがアジア系ということもあるのだが)。 また、登場人物の誰かに感情移入できる作品が多いなか、冒頭30秒で主人公に殺意を感じたPOV映画は本作が初めて。(ちなみに「U.M.A. 2014 フォレスト・モンスター」では30分で応援⇒殺意へと心境変化している)

最大のみどころはスタイリッシュでアイデアたっぷりのアクション映像。手持ちカメラとウェアラブルカメラで記録された映像には、ビルを素手でよじ登ったり、走ってバイクを追い抜いたり、壁を壊し、人間をふっとばす姿がシームレスに映し出される。 当事者視点(ウェアラブルカメラを付けたデレク) と記録者視点(撮影者のクリス)が巧みに切り替わるので、だれることなく臨場感を楽しむことができる。逃げる人間の視点にフォーカスした作品が多いなか、襲って攻撃する側の視点で映像を作ったのは革命的。長回しのパルクールアクションや狭い屋内での戦闘シーンは現在公開中の「ハードコア(Hardcore Henry)」に影響を与えているのではないだろうか?

SNSに依存している人ほどこの映画は面白い。軽はずみな行動によって取り返しのつかない事態に巻き込まれていく若者を傍観し、恐怖とともにある種の心地よさと羨ましさを感じてしまう。それが「アフリクテッド」が仕掛けた罠だ。インターネットで常に誰かとつながっているデレクとクリフには恐怖心が存在しない。刺激的な体験を求め、旅先でハプニングを待っている。その様子を面白おかしく配信することで2人はスターになるのだ。アクセス数といいね!の数が自分探しの旅を評価する唯一の価値。そう、彼らは他人でありながら友人であり、自分自身でもあるのだ。ざまぁみろ、と安全地帯から唾を飛ばすのか?結果はどうであれ、旅に出た行動力をすごいと思うのか?自分はどっちだろう?とても深く考えさせる映画だ。

▼作品情報
邦題:アフリクテッド
原題:Afflicted(直訳:精神的・身体的に苦しんでいる、被災、)
ポスター画像:人間が建物からジャンプしている様子(日本版)
後頭部に描かれた地図と血管、そして変形した皮膚(海外版)
構成:POV、モキュメンタリー
テーマ:自分探し、意識高い系、感染、変身、超能力、
舞台:アメリカ、フランス、スペイン、イタリア
カメラの数:2台~3台
手ぶれ度:中
製作年:2013年
監督:デレク・リー、クリフ・プラウズ
キャスト:デレク・リー、クリフ・プラウズ